まんさいでの徳雅美博士の講演まとめ
2008年11月2日の「まんさい」で行われた徳雅美博士の講演のまとめです。萩尾望都先生との対談に先立って行われました。この講演とその後の対談との内容的な関連はほとんど無かったのですが、非常におもしろい講演でした。
徳さんは鹿児島県の奄美大島出身で、首都圏の短大を卒業後、大きな企業にしばらく勤めた後に一念発起して渡米して、美術教育などを中心に研究なさっている方です。アメリカで結婚してお子さんもいらっしゃいます。ご自身も漫画ファンですが、決して漫画の専門家ではない、そんなことはおこがましくて言えないそうです。だからこそ、豪華な作家陣に怖いモノ知らずで突撃して今回のような展覧会を実現できたのかもしれないともおっしゃっていました。非常にパワフルで魅力的な先生です。
本来は1時間30分を想定したプログラムを30分に詰め込む形だったので、省略しながら大急ぎの講演でしたが、プロジェクターで図版などを提示しながらの密度の高い講演に、会場に集まった300人ほどのお客さんは釘付けでした。
ということで、箇条書きですが、かなり頑張ってまとめました。
- 子どもの絵の発達の過程を見ていくと文化との関係が見えてくる。
- 自分の息子の絵の発達過程を例に見ていこう。
- 鼻の表現の仕方として、最初は穴を黒々と描くことで表現していたが、そのうちそれが不格好であると認識して鼻そのものの表現を省略してしまうようになった。このことから、子どもにも美的感覚があって、美しいモノを描こうという意識があることが分かる。
- 子どもは写実的なことは描けない。大好きなテーマについてしか描けない。息子の場合は、大好きなカエルと空手を組み合わせて、カエルが空手をやっている様子を描いた。
- 同じく息子が大好きなドラゴンの絵を描く様子を見ていると、同じ時期に描いたにも関わらず様々なバリエーションをもったドラゴンを描いていることに気付く。それぞれ、自分自身のために描いた絵、親のために描いてあげた絵、先生に言われて描いた絵で、絵を見る人に応じて描き分けることを子どもは出来ることが分かる。
- 日米の子どもの絵を比較すると、アイスナーが提唱する代表的な子どもの絵のパターンへの当てはめにおいて大きな違いが見られて非常に興味深い。
- アメリカの子どもの絵はアイスナーの類型に90%以上が入る。対して日本の子どもの絵は60%以上が入らない!
- 例えば日本の小学4年生の女の子が描いた絵を見るとよく分かる。鉄棒をする自分と、それを下から見ている友達を描いた斜め上からの構図で描いた絵で、ちゃんと遠近法が使われていて、鉄棒の上にいる=視点に近い自分を明らかに大きく描いている。
- 樹木を描くにしても、日本の子どもは木の枝が画面の外側からにゅっと伸びてきている構図などを平気で描くが、アメリカの子どもは必ず根本から枝の先まで木全体を画面の中に入れ込む。
- 写真的な構図を日本の子どもは多用する。
- これは漫画の影響では?
- ただし、アメリカの子どもも昔から漫画を読んでいる。いわゆるアメコミの影響を受けてもよさそうなものだが、調査の結果を見る限り、アメコミの影響を受けていないように思える。
- 日本の漫画が特別なのではないか?日本の漫画が、写真的な構図=パースを強烈にきかせた構図を効果的に用いることに代表されるように、独自の漫画的な絵の文法を発達させまくっており、そうした漫画を読みこなすためのリテラシーを子ども達は自然に身につけ、これが子ども達に影響を与えたと考えられる。
- アメコミが基本的にカラーの印刷物であることに対して、日本の漫画が基本的に白黒であることが、日本独自の漫画的な絵の文法の発達の一因か。
- 例えば、ある2枚の白黒の漫画絵を見せて、一方が日本人で一方が欧米人であるがどちらが日本人であるかというテストをすると、日本人とアメリカ人の回答が真逆になる例がある。1枚の絵は、劇画タッチで描かれて髪の部分にベタが塗られていて日本人の漫画リテラシーから見るとどう見ても日本人女性。もう1枚の絵は少女マンガタッチで描かれていて髪の部分が白いままで、かわいらしい豪華な洋服を着ていて日本人の漫画リテラシーから見るとどう見ても西洋の金髪のお姫様。ところがアメリカ人は、髪の部分が白いまま=金髪というお約束を身につけていないので、髪にベタが塗られているかどうかは何の判断基準にもしないし、むしろ、日本人=カワイイというイメージがあるので、金髪のお姫様の方がカワイイから日本人だという判断をするアメリカ人がほとんどでびっくりした。
- 他にも日本漫画の独自の文法は非常に高度。吹き出しの形が丸か四角かで、それが発話か思考かで使い分けれらている事を読者がきちんと理解してしまう。
- ジャンプが最盛期に650万部も発行されていたことは、本当に凄まじいこと。
- 日本の美術教育においても、日本漫画のすごさがやっと理解されて、ある年度からは美術の授業に漫画を取り込むことを文部科学省も始めた。
- アメリカの社会においては、MANGAに対する認識は二極分化している。まんべんなく知っているのではなく、知っている人は猛烈に詳しくて、知らない人はまったく知らない。
- MANGA人気が凄まじいことは間違いなく、2002年にはアメリカのTVガイドの表紙に遊戯王が登場した。
- ニューヨークタイムズも2005年にMANGAに対する態度をガラリと変えた。それまでは否定的だったのが、突然少女マンガなどを賛美し始めた。
- スキャンレーションと呼ばれる活動が盛んで、漫画をスキャナーで取り込んで翻訳してネット上で公開する活動のこと。スキャンレーショングループが500以上あり、それぞれのグループが平均して5タイトルの漫画をフォローしているので、ネット上には2500タイトル以上の漫画がスキャンレーションで流通していることになる。
- コスプレショーは世界各地で大盛況で、アメリカのミネアポリスやブラジルに行ったときも凄まじい熱気だった。
- ということで少女マンガパワー展を企画してアメリカやカナダを巡回した。ただし、漫画全般についての研究は既に多くされていたので、まだ手薄なところを攻めようということで少女マンガにターゲットをテーマにした。
- アメリカでアメリカの補助金を獲得して実施できたことに意義があると思う。
- アメリカではNASAから補助金をもらってロボットの漫画を描いている人もいる。
- 漫画のコスプレイベントなどでは人種を越えてのつながりが見られる。
- ベネズエラで講演したときは、凄まじい熱気だった。私が有名とかではなく、日本のMANGAの専門家だというだけで大変な歓迎ぶりだった。
- 各国に駐在する日本の大使も漫画を切り口にした活動に熱心な人が多い。
- 今、新しい展示会を立ち上げようとしているところ。乞う!ご期待!
※2009年2月2日追記:萩尾望都先生との対談については「まんさいでの萩尾望都先生の対談まとめ(1)」にまとめました。
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